好きから始まった、日本へのキャリアストーリー
幼少期の家族旅行をきっかけに日本に憧れを抱き、日本のアニメやドラマを通じて、語学や文化への興味を深めてきた台湾出身のトさん。ワーキングホリデー、就労、転職と経験を重ねながら、自分らしいキャリアを日本で築いているトさんの歩みを紹介します。
ト ウンジさん
「いつか日本へ」——そう思い始めた日々

私が日本に興味を持つようになったきっかけは、子どもの頃に両親と一緒に行った家族旅行でした。初めて訪れた日本の街並みや雰囲気がとても印象的で、「いつかまた来たいな」と、自然に思うようになったんです。
もともとアニメが好きだったこともあり、高校生になる頃には日本文化への関心がさらに深まっていました。特に「ONE PIECE」には夢中になっていて、ほかにもさまざまな作品をよく見ていましたね。そうした作品に触れるうちに、「いつか日本で生活してみたい」という気持ちが、だんだんと強くなっていきました。
その想いを実現するため、大学では日本語専攻へ。ドラマやアニメを通して、ある程度日本語には親しんでいたので、授業自体はそれほど難しく感じませんでした。むしろ、日本の文学や文化について学ぶ時間がとても楽しくて、毎日の勉強が充実していましたね。ただ、一つだけ苦労したのが敬語です。使い分けがとても難しくて、「これは本当に合っているのかな」と悩むことも多かったです。それでも、少しずつ慣れていく過程も含めて、日本語を学ぶ面白さの一つだったと感じています。
当時、英語の授業で知り合った日本人留学生と、アニメ好きという共通点があったことから、すぐに打ち解けたんです。日本語でやり取りをしながら交流を深め、遊びを通して日本文化に触れる時間が増えていきました。こうした経験は、教科書では学べない「生きた日本語」を身につけるきっかけになったと感じています。
日本へ早く行きたいという気持ちは強かったのですが、大学を卒業してからは、すぐに日本へ行くのではなく、まず台湾で1年間働くことを選びました。日本で生活するための資金をしっかり準備したかったからです。就職先はホテルのコールセンター。電話による宿泊予約の対応を担当していました。
仕事が忙しい毎日でしたが、日本語の勉強だけはやめませんでした。せっかく身につけた語学力を落としたくなかったからです。だからこそ、意識して日本語に触れる時間を作るようにしていました。「チェンソーマン」や「ハイキュー!!」などの好きなアニメを毎日のように見て、日本語の感覚を保つよう心がけていましたね。
そうして少しずつ準備を重ねながら、「いつか日本へ行く」という目標に向かって、着実に歩んでいきました。
東京で始まった、挑戦の日々

ワーキングホリデーで日本に行くと決めたとき、行き先は迷わず東京にしました。理由はシンプルで、大好きなVTuberのライブが、日本武道館やKアリーナなど、東京周辺で開催されることが多かったからです。「推し活を思いきり楽しむなら、やっぱり東京かな」と思ったんですよね。
実際に住み始めてみると、まず驚いたのが生活のスピードでした。電車の乗り降りも、街を歩く人のペースも、とにかく早い。「みんな、こんなに急いでどこへ行くんだろう」と、最初は戸惑いましたね。台湾南部出身の私にとって、東京の雰囲気は少し静かで、どこか冷たく感じることもありました。
それでも、「きっと慣れるはずだ」と自分に言い聞かせながら、前向きな気持ちで新生活をスタートさせました。不安もありましたが、それ以上に便利で、可能性のある街だと感じていたからです。
来日してすぐにアルバイトを始めました。最初に働いたのは、セブンイレブンです。ここでは、言葉の壁に何度もぶつかりました。特に敬語は難しくて、うまく使えずに先輩から注意されることも多かったです。また台湾と日本の仕事の進め方の違いにも、最初はかなり戸惑いましたね。
並行してガストのキッチンでも働くようになり、セブンイレブンとは対照的な温かい職場環境に触れる中で、仕事に対する印象が大きく変わりました。周囲のスタッフはとても親切で、業務も丁寧に指導してくれたんです。
忙しい毎日ではありましたが、こうした経験を通して、日本で働くことの大変さと楽しさの両方を学ぶことができた気がします。
日本に残る決意と、次のキャリアへの一歩

ワーキングホリデーで日本に来てしばらく経った頃、「このまま日本で働き続けたい」という気持ちが、少しずつ強くなっていきました。そこで次に考えたのが、就労ビザの取得です。台湾での経験を活かせる仕事はないかと考えたときに、ホテルのフロント業務にいきつきました。
宿泊されるお客様の7割ほどが外国の方だったので、日本語だけでなく、英語や中国語も使いながら対応する毎日。さまざまな言語を実際の現場で活かせたのは、大きな自信につながりました。
また、この仕事を通して、苦手だった敬語も少しずつ身についていきましたね。先輩の対応をよく観察したり、自分なりに工夫したりしながら、「こういう場面では、こう言えばいいんだな」と、実践を通して覚えていった感覚です。
一方で、仕事の大変さも実感しました。部屋の広さや清掃状態に関するクレーム対応では、どう答えるべきか悩むことも多かったですし、長時間立ちっぱなしの勤務で、体力的につらいと感じる日もありました。それでも、「ここで踏ん張れば、次につながる」と自分に言い聞かせながら、なんとか乗り越えてきました。
そんな中で、将来について改めて考えるようになったんです。サービス業の仕事はやりがいがある一方で、「このままずっと続けていけるだろうか」と。そこで、「一生使えるスキルを身につけたい」「もっと自分の可能性を広げたい」と思い、以前から興味のあったIT業界への転身を決意しました。
転職活動を進める中で、エージェントの方から紹介されたのが、今のITの会社です。特に魅力を感じたのが、多国籍なメンバーと働ける環境。「ここなら、自分の語学力も活かしながら成長できそうだ」と感じ、入社を決めました。
入社後はITサポート業務に携わりました。主な仕事は、お客様の情報などを入力するチケット登録業務です。ITの仕事は初めてでしたが、パソコン操作に大きな苦手意識はなく、比較的スムーズに慣れることができましたね。
現在は、さらなるスキルアップを目指して、IT関連の資格取得やTOEICの勉強にも取り組んでいます。将来的には、AI関連の分野にも挑戦してみたいと考えていて、少しずつ準備を進めているところです。
これからは、日本で経験を積みながら、自分だけの強みをしっかり築いていきたいですね。専門的なスキルを身につけ、安定した生活を日本で送れるようになることが、今の一番の目標です。
海外へ行きたいと思っている人へアドバイスをお願いします
海外に行く前って、「もっと準備しなきゃ」「まだ足りないかも」と、不安になってしまうことも多いと思うんです。でも、最初から完璧を目指す必要はないと考えています。正直、不安がゼロになることなんて、ほとんどないです。だからこそ、「まずは一歩踏み出してみること」が、いちばん大切なんじゃないかなと思っています。
知らない環境に飛び込むことを怖がるよりも、新しい世界を楽しむ気持ちを持つこと。その姿勢こそが、海外生活をスタートさせる一番の原動力になるはずです。

