社会課題を“自分ごと”に 海外で、日本で、学び続ける私の現在地

渡辺 美琴さん

「ナゼそこに?」画面の中の”おじさん“に大感銘

▲バックパッカー

中学生の頃、偶然目にしたテレビ番組「世界ナゼそこに?日本人~知られざる波乱万丈伝~(テレビ大阪)」。画面の向こうに映っていたのは、東南アジアの農村で、身一つで農業に向き合うひとりの日本人男性の姿でした。

遠い異国の地。言葉も文化も異なる環境のなかで、地域の人々に慕われ、信頼され、必要とされている日本人がいる―――その光景に、私は心を強く揺さぶられました。胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚とともに、次の瞬間には「私も、この人のようになりたい」と、はっきりとした憧れが芽生えていました。

その日を境に、私の中の好奇心に火が灯りました。静かだった心のエンジンが、大きな音を立てて回り始めたのです。それまで、どこか遠い世界の出来事のように感じていた「海外」や「社会問題」が、一気に自分ごととして迫ってきた瞬間でもありました。

目の当たりにした格差と忘れられない言葉

▲Philippines_歯科治療ボランティア

関心は、それから自然と “海外”へ。社会問題について知る機会が増えるなかで、国際協力や国連にも興味を持つようになり、公立高校の国際教養科へ進学することを決めました。

授業では「中東の女性・子どもの権利」をテーマにフェアトレードを学び、検品やチョコレートのパッキングといった作業を通して、カカオ生産者と関わる内職も実際に体験しました。国際交流の場では、聞いてみたいこと、話してみたいことが次々と浮かび、思わず前のめり。英語が得意とは言えなかった私ですが、いつの間にか積極的になっている自分に気が付きました。

高校2年生時には、フィリピンで4週間の歯科治療ボランティアへ参加。1日1地域を移動しながら治療を行うため、継続的なケアというより、深刻な症状への対処が中心となる活動です。歯を磨く習慣や道具すらない環境のなかで、治療の施しようがない歯を目の前で抜かれていく現地の人々。その光景に、先進国である日本との大きな隔たりを、強烈に突きつけられ、大きな衝撃を受けました。

活動期間中には、ボランティアを率いていた団員の方々と話す機会もあり、そのなかで団長が口にした「ひとりひとりが相手のことを思いやれば、戦争はなくなるはずだ」という言葉が、今も心に残っています。この経験を通して、「格差をなくしたい」という思いが、私の中でより輪郭のはっきりしたものになっていきました。

出会いのなかで見えてきた次の行き先

▲Finland_おにぎりワークショップ開催
▲Finland_おにぎりワークショップ開催
▲Nepal_村でお世話になった家族と

高校での探究学習やボランティアの経験を通して、「社会問題を解決したい」という思いはさらに強まり、大学でも国際系の学部へ進学。

入学後は、フェアトレード関連の企業でインターンとして活動したほか、ネパールコーヒーを扱う珈琲店でのアルバイトを通じて、実際にコーヒーファームを訪ねる機会に恵まれました。また、フィンランドへの交換留学なども経験し、「自分の目で見に行く」「興味を持ったら動く」をモットーに、学外へも積極的に足を運び、動き回るような日々を過ごしていました。そして、そうした活動の延長線上で、シェアハウスでのインターンに挑戦しました。

私自身も実際にシェアハウスで暮らし、インターンの傍ら、さまざまな国籍の人と交流しましたが、とりわけヨーロッパの同世代の行動力に圧倒されました。大学3年生になれば、皆が足並みを揃えるように就職活動に向かっていく日本とは異なり、「日本が好きだから、もっと知りたくて日本に来た」というように、自分の興味関心に素直に向き合って、やりたいことを実現しようとするヨーロッパの若者たち。すでに何か国語も習得している上、日本の言葉に惚れ込んでしまい、研究のために日本に滞在しているというような突き抜けたタイプも珍しくなく、シェアハウス滞在中はポジティブな刺激の多い毎日を過ごしました。

常識や慣習に埋もれず、自分らしさを輝かせる友人たちに囲まれ、「もう少し、この空気の中に身を置いてみたい」——そう感じたことがきっかけで、卒業後はドイツへワーキングホリデーに行くことを決めました。 思い返すと、コロナ渦だった大学時代にも海外へ出向いたり、卒業後もワーキングホリデーだったりと、自由に動き回る娘を前に「なにやってるかわからないけど」と笑いつつも、「やりたいことがあるならやりな」といつも穏やかに見守ってくれていた両親には感謝の気持ちでいっぱいです。

主張あふれる「トイレ」で実感した、ドイツのアイデンティティ

▲Germany_友人の誕生日会ピクニック

ドイツでは、日本食レストランで働きながら、NPO法人のオンラインインターンにも携わり、約1年間を過ごしました。

「愛想笑いはしない」「効率重視の価値観」など、驚くようなカルチャーギャップを感じることも少なくはありませんでしたが、ドイツらしい“良さ”も日常に多く感じることができました。

ある日、あと一歩というところでバスを逃してしまったことがあったのですが、大きなバックパックを背負った私に気づいた運転手さんが、私を手招きし、すでに発車させたバスをわざわざ近くに停めて、乗せてくれたことがありました。また、レストランでは、食べられないものがあれば、その食材を抜いたりといったことにも快く対応してくれます。

効率重視という点でマニュアルは重要ですが、ルールがあっても目の前の相手を尊重し、状況に応じて個人が考え、対応できる柔軟さは、日本にはないドイツの良さだと感じました。

また、私が暮らしていたのは、保守的な地域が多いとされる東側のなかで、唯一リベラルが多いといわれる学生街でしたが、そこでは若い世代が積極的に政治活動に参加し、「男女平等」や「LGBTQの権利」を訴える動きが日常の風景として存在していました。

なかでも、主張をプリントしたステッカーをトイレに貼るという文化が盛んで、くすっと笑えるような、気の利いたブラックジョークを交えたコピーを多く目にしました。社会課題への関心の高さと、それを「自分ごと」として捉えるドイツの空気を肌で感じ、感動したのと同時に、この「自分ごと」のなかに、シェアハウス時代に感じた「行動力」の根っこを見つけたような気がしました。

社会課題への思いを、仕事に重ねて

▲Germany_大学のModel United Nationに参加

日本への帰国時期が近づくなか、今後の進路について考えるようになりました。現地のNGOで働くことも検討しましたが、ドイツ語のレベルがまだ十分ではないことや、専門分野が定まっていないことなどを考えると、「社会問題の解決に携わりたい」という強い思いは変わらない一方で、自分にはまだ超えるべき壁があるとも感じるようになりました。

そこで、「まずは日本で専門性を身につけられる仕事に就こう」と考え、JICAパートナーで求人を探していたところ、現在在籍しているAlexsolutionsとのご縁があり、入社することになりました。

AlexsolutionsはIT×英語を強みにした会社で、常駐先の企業もさまざまです。業務内容はネットワークからインフラまで幅広く、私が現在担当しているのは、通信ケーブルの設置に関わるITの物理インフラ分野です。入社当初は、「社会問題の解決」とITという分野がどのようにつながるのか、確信が持てず、不安を感じたこともありました。しかし、実際の業務に就いてみると、生活を支える社会基盤を造る事業に携わることができ、考えていたより遥かに「社会問題」に直結した課題に取り組めている実感を持つことができるようになりました。それが、今の大きなモチベーションになっています。将来的には、東アジアの関係国への出張もあると聞いており、今からとても楽しみです。 また、休日には大学時代からお世話になっているネパールコーヒーを扱う珈琲店で、細々とお手伝いを続けています。自分にできることがあれば、これからも力になっていきたいです。

続いていく、私のテーマ

▲日本_万博手伝い

「社会課題の解決に関わりたい」という想いは、いつも自分の真ん中にあり続けていますが、将来のビジョンを明確な言葉で語れるようになるまでには、きっとまだまだ沢山の経験が必要だと感じています。手探りの段階である“いま”大切にしているのは、「目の前にあることに一生懸命になること」「将来に向けて、自分の可能性を広げるための種まきをすること」です。

日々の業務では、「目の前」を大切に。ビジネスパーソンとしての立ち振る舞いやコミュニケーションの取り方、新しい知識や視点、先を見通して行動する力など、いま自分が学ぶべきことが多く、一つひとつを丁寧に積み重ねています。

プライベートの時間には、「種まき」を。イベントのお手伝いなどを通して、周囲のコミュニティに顔を出し、さまざまなバックグラウンドの方々との出会いを大切にしています。多様な価値観や生き方に触れるたびに、自分の世界が少しずつ広がっていく感覚があり、そうした出会いが、将来の選択肢を豊かにしてくれていると感じています。

そして、自分らしさである「実践のなかでの学び」も忘れずに。会社の制度等も活用しながら、青年海外協力隊をはじめとする国際ボランティアにも挑戦したいと考えています。

どんな形で、どこに繋がっていくのか、“将来”の姿はまだブラインド・ボックスの中です。まだ見ぬ未来にわくわくしながら、素直に学び、誠実に積み重ね、自分らしく社会貢献できる道を切り拓いていきたいと思っています。