憧れから始まった挑戦——ベトナムから日本へ、ITと自立で切り拓く私のキャリア
子どもの頃のアニメ視聴をきっかけに日本への憧れを抱き、大学での日本語専攻、千葉でのインターンシップ、そして母国の日系IT企業での勤務を経て、再び日本へと踏み出されたベトナム出身のドゥックさん。言葉の壁や自立の苦労を乗り越えながら、ITエンジニアとして日本で長期的なキャリアを築こうとする歩みを紹介します。
ヴォー ドゥックさん
アニメから始まった日本への憧れと、日本語学習の試練

私が初めて日本という国に興味を持ったのは、幼少期に夢中になって見た日本のアニメがきっかけでした。ベトナムでも「ドラえもん」や「ポケモン」は大人気で、私も例に漏れずその世界観に引き込まれていきました。作品を楽しむうちに、「いつか日本に行って、日本語で話せたらカッコいいな」という想いが自然と芽生えていったのです。
憧れを形にするため、大学進学時には日本語学科を専攻しました。大学に入るまでは日本語の知識が全くなかったため、ひらがなやカタカナの五十音から本格的な学習がスタート。
勉強を進める中で特に苦戦したのが「漢字」です。漢字の意味自体はある程度理解できても、読み方が何通りもあったり複雑だったりして覚えるのが本当に大変でした。そのため、ノートに何度も何度も漢字を書いて身体で叩き込むという方法で勉強を続けましたね。
また、教科書で学ぶ日本語と、日本人が実際に話す「生きた日本語」とのギャップにも戸惑いました。教科書では習わないような話し言葉や、ちいさい「っ」を使った短縮表現(「ちっちゃい」など)に初めて触れたとき、何を言っているのか全く聞き取れず、「これはどういう意味なのだろう」と大きなショックを受けたことを覚えています。
そして当時はベトナムで日本人と会話をする機会がほとんどなく、自分の会話力に自信が持てないまま、もどかしさを抱えて勉強に打ち込んでいました。
千葉でのインターンシップ——初めての日本と自立への一歩

大きな転機となったのは、大学4年生の時に参加した6ヶ月間の日本でのインターンシップでした。大学のプログラムを利用して訪れたのは千葉県で、これが私にとって人生初の来日。
配属先は結婚式場で、接客業務を担当することになりました。当時の私にとって、丁寧な接客用語や敬語を理解して使いこなすのは至難の業でしたね。最初は「言葉がうまく理解できず、叱られてしまうのではないか」と不安でいっぱいになり、覚悟を決めて現場に立っていたほどです。しかし、実際の職場の皆さんは私の予想とは大きく異なり、叱るどころかとても丁寧に一つひとつ教えてくださいました。
特に強く覚えているのは、初めて直接お客様の接客を行い、お料理やメニューの紹介・給仕を担当した時のことです。緊張しながらも業務をやり遂げた際、担当マネージャーから「よくできたね」と褒めていただけたのです。厳しい環境を覚悟していた自分にとって、温かく認めてもらえた経験は心から嬉しく、一気に自信へと繋がりました。
また、仕事以外の面でも、職場の先輩や同僚たちがとても親切で、連絡先を交換して週末や休日に水族館や美術館、ピクニックなどへ一緒に連れ出してくれたのです。ネイティブの日本人と触れ合い、出かけることで、生きた日本の文化や習慣を肌で学ぶことができました。
一方で、生活面では「自立」という大きな試練に直面しました。ベトナムにいた頃は実家で母に家事や生活の全てを頼り切っており、自分では何もしてこなかったのです。しかし、言葉も文化も違う日本で家族と離れて一人暮らしを始めたことで、自分で生活をやりくりする自立の力を身につける必要に迫られました。
特に意識したのは「節約」です。スーパーに買い物へ行く際は値引きされていない商品は買わないように徹底し、外食も控えて自炊を中心に。こまめに電気を消すなど生活費を抑える工夫を重ねる中で、お金の重みや親のありがたみを実感し、人として大きく成長できた6ヶ月間となりました。
IT×日本語の実績を胸に、日本での長期的なキャリアへ

千葉でのインターンシップを終えてベトナムへ帰国し、大学を卒業した後は、地元の日系企業へ就職しました。配属されたのはソフトウェアの品質管理部門。
業務内では日本の本社とオンラインで定例会議を行ったり、日本語で会話・連絡を取り合ったりする機会がありました。主な業務は、メール関連をはじめとするソフトウェアやアプリの新バージョンがリリースされた際に、仕様書を確認し、テストケースを作成して実際の動作テストを行うこと。テスト中に不具合が発生した場合はログを確認して原因を調査し、結果をまとめて日本側の管理部門へ報告していました。
接客をしていた時と比べると、会話の機会は限られていたものの、この仕事を通して日本語の設計書を読み込み、正確な日本語で文章を作成する「読解力」と「文章作成力」が劇的に向上しましたね。ITの現場で実践的な日本語スキルを使えたことは、大きな手応えとなりました。
しかし、勤務を続ける中で将来のキャリアについて深く考えるようになります。現在のベトナムでは会社の状況によって雇用の安定性が左右されやすく、突然職を失う人も少なくありません。そうした情勢を踏まえ、「より安定した環境で、これまで培った日本語能力とITスキルを活かして、長期的に成長していきたい」という強い想いが高まっていったのです。
こうして日本への再来日を決意しました。渡航前は1ヶ月ほどじっくりと荷物や心の準備を整え、期待と緊張を胸に再び日本へ。
そしていよいよ新しい現場でネットワークセキュリティに関する業務に携わっていきます。まずは目の前のお仕事一つひとつに真摯に取り組み、多様な経験を積む中で自分の軸となる目標を具体化させていきたいと考えています。
そしてプライベートでの大きな夢は、日本の「47都道府県すべてを巡る」ことです。せっかく日本で暮らすのだから美しい景観を楽しむだけでなく、東京と大阪で人や街の雰囲気が違うように、地域ごとの多様な文化や人々の魅力を自分自身の目で見て体験したいと思っています。
海外へ行きたいと思っている人へアドバイスをお願いします
これから海外へ飛び出し、新しい生活やキャリアに挑戦したいと考えているみなさんに伝えたいのは、まず渡航前に「家事や料理など、自立して生活するための準備をしっかりしておくこと」の大切さです。
また、現地に着いたら部屋に閉じこもるのではなく、たくさん街を歩いて自分の肌で実際の生活や文化を体感することをお勧めします。特に、現地の人々との日常的なコミュニケーションを意識してみてください。言葉の勉強だけでは分からない、その土地ならではの考え方や生きた学びがたくさん得られるはずです。
そして、その地域の社会文化やマナーを理解し、周りの人々と気持ちよく働けるような配慮を持つこと。何事においても「誠意」を大切にし、向上心を持って真剣に取り組む姿勢があれば、どんな異国の地であっても周りは助けてくれますし、自分自身の道を切り拓いていけるはずだと思います。

