海外が遠かった自分が、英語を仕事にするまで

大学時代まで、海外は自分とは無縁の世界だと思っていた八木さん。タイへの短い旅をきっかけに価値観が揺さぶられ、休学、フィリピン留学、バックパッカー旅へと踏み出していく。そして英語はキャリアの軸に。そんな八木さんの物語をご紹介します。

八木義知さん

海外は遠い世界だと思っていた。あのタイの旅までは

▲タイ旅行

大学2年生まで、海外に対して特別な興味はありませんでした。正直「自分が行くもの」という感覚もなかったです。そんな中で、世界一周をした人の本を読んだり、海外志向の強い友人に影響を受けたりして、少しずつ意識が変わっていきました。決定的だったのは、当時アルバイトをしていた「GAP」での環境です。休みになると、大学生も社員の方も、みんな当たり前のように海外へ行くんです。海外旅行の話を聞くたびに、「行く人はこんなに自然に行っているんだ」と感じるようになりました。それなら「自分も時間があるうちに一度くらい外に出てみたい」そう思うようになったんです。

そして就職活動が始まる前、友人と2週間タイへ行きました。チェンマイやアユタヤ、バンコクを回る中で、野犬に追いかけられそうになったり、コンビニで日本では考えられない光景を目にしたりと、最初は戸惑いの連続でした。ただ、日本と違うこと自体を「これはこれで面白い」と、この旅で「違う世界に身を置く面白さ」を実感した気がします。

帰国後、自然と考えるようになりました。「このまま大学を卒業していいのか」と。進路もやりたいこともはっきりしていなかったので、それなら「一番時間がある今のうちに、もう少し世界を見てみたい」。そう考え、1年間の休学を決めました。

そうして向かったのが、フィリピンでの語学留学。渡航先をフィリピンに選んだのは、費用面で現実的だったことと、旅をより深いものにするために、最低限の英語力を身につけておきたかったからです。語学そのものが目的というより、その後に控えていたバックパッカー旅の準備としてフィリピンに行く、という位置づけでした。

フィリピンで英語と向き合った3ヶ月

留学で向かったのは、フィリピン中部にあるイロイロ島でした。実際に着いてみると、想像以上にのどかな場所で、夜になると街灯も少なく、本当に真っ暗です。

▲フィリピン滞在時

生活は寮の一人部屋。正直にいうと、設備面は決して快適とは言えませんでした。シャワーは水だけで、日本の生活と比べれば不便なことも多かったです。ただ、その分、周りには本気で勉強しに来ている人ばかりで、余計な誘惑がなく、結果的には、集中できる環境だったと思います。

授業はマンツーマンが中心で、1日に6〜8コマほど。留学前は、ほとんど英語が話せませんでしたし、聞き取ることもできなかったんですが、簡単な会話なら困らないレベルになっていました。週末に外出して、現地の人と話す中で「前より聞こえている」「前なら言えなかったことが言えている」と感じる瞬間があり、その小さな積み重ねが素直にうれしかったです。

印象に残っているのは、先生との何気ない会話です。宗教観や価値観の違いに触れる場面があり、その瞬間「自分の当たり前は、世界の当たり前じゃない」と実感しました。英語だけでなく、そうした違いに触れられたことも、この留学で得た大きな学びだったと思います。

ここからが本番。バックパッカー旅で世界に触れた

▲バックパッカー①
▲バックパッカー②

フィリピンで3ヶ月の語学留学を終えたあと、当初から考えていた通り、そのままバックパッカー旅に出ました。感覚としては、ここからが本番。フィリピンで身につけた英語を実際の旅の中で試してみる時間でした。

旅のスタートに選んだのはフィリピンのセブ島。イロイロ島での留学生活とは違うフィリピンを知りたくて、数日間滞在することにしたんです。そして次に向かったインドネシアでは、バリ島に2週間ほど滞在しました。寺院を巡ったり、棚田を見に行ったり。印象に残っているのは、ゲストハウスで仲良くなった人たちと食事をしたときのことです。そこで初めて、現地の食事スタイル、「手でご飯を食べる」という体験をしました。正直、最初は少し抵抗がありましたが、やってみると驚くほど美味しい!「食べ方が違うだけで、こんなに印象が変わるんだな」と感じた瞬間でした。

そしてジョグジャカルタという町では、宿で知り合ったドイツ人や中国人と意気投合し、そのまま標高2,900メートルほどの山に登ることに。半袖、短パン、スニーカーという軽装での登山。振り返ると、かなり無謀だったなと思います。(笑)ジャカルタに行った際は、そのドイツ人の滞在先に数日間お世話になることもありました。こういう予想外の出会いこそが、バックパッカー旅の面白さだと実感しましたね。

次に訪れたタイでは、バンコクのカオサン通りを歩き、久しぶりに日本食が恋しくなってラーメンや牛角にも足を運びました。そしてチェンマイでゆっくりと過ごし、ラオスへ向かおうとした矢先に高熱を出し、現地のローカルな医師に診てもらうことに。不安を感じながらも、「こうした出来事も含めて旅なのだ」と、どこかで冷静に受け止めていました。

ラオスのルアンパバーンは、街全体が世界遺産に登録されている都市です。早朝には僧侶たちが通りを歩き、住民がお布施を行う託鉢の風景が日常としてあります。滞在中は、そうした朝の時間を眺めたり、美しい滝を見に行ったりして過ごしていました。そんな中で出会った日本人大学生に誘われ、ローカルの人たちと一緒にサッカーをすることになったんです。これが想像以上に楽しくて、気づけば滞在を延ばし、2週間ほど過ごしていました。

その後、中国・四川省の成都へ。バンコクで知り合った中国人の友人を訪ね、彼の実家に泊めてもらいました。観光地ではない田舎町で、結婚式にも参加させてもらうなど、完全に現地の暮らしに溶け込む時間。いわゆる観光では、まず得られない体験でした。

旅の終盤は、カンボジアとベトナムを巡りながら観光を楽しみ、最後にタイへ向かいました。そこで、卒業旅行でバンコクを訪れていた大学の友人たちと合流し、そのまま一緒に日本へ帰国することになります。

この旅を通して感じたのは、観光以上のものを確実に得られたということです。フィリピンで学んだ英語を使い、現地の人や多国籍な旅行者と話す。そうしたことで、旅の密度はかなり濃くなったと思います。そして最初は戸惑っていた「違い」も、いつの間にか「面白さ」に変わっていました。その感覚を持てたことが、この旅での大きな収穫だったと思います。

宿泊業界からITへ──英語を仕事にする選択

▲現在

バックパッカー旅を終えて日本に戻り、大学を卒業した後、最初のキャリアとして選んだのが宿泊業界です。ホステルの受付を中心に、併設されたカフェの業務にも携わっていました。

この業界を選んだ理由は、旅をしていたとき、宿泊施設は単なる「泊まる場所」ではなく、人と人が自然につながる拠点のように感じていました。あの空気感の中で働いてみたいと思ったんです。加えて、英語を使える環境に身を置きたいという気持ちもありました。

働き始めて1年ほどは、海外からの観光客が本当に多かったです。そのため日常的に英語で接客をしていました。「やってきたことが、ちゃんと仕事につながっているな」と実感できていた時期です。ただ、その後にコロナ禍が訪れ、状況は一変します。観光客はほとんどいなくなり、現場の雰囲気も、仕事の中身も大きく変わっていきました。その変化の中で、思い描いていた働き方とのギャップを抱えつつ、3年ほどが過ぎていきます。

その中で、次第に考えるようになりました。「もっと英語を使える環境で働きたいな」と。そこで知ったのが、海外拠点や海外の利用者と日常的にやり取りをするIT業界の仕事でした。

文系出身で、ITの知識はほぼゼロ。不安がなかったと言えば嘘になります。ただ、「入ってから勉強して、ついていくしかない」と腹をくくって飛び込みました。最初から自信があったわけではありません。やらない理由より、やる理由の方が大きかった、という感覚です。

現在は、金融業界に携わるサービスデスクで働いています。システムに関する問い合わせ対応や、内容に応じたエスカレーションが主な仕事です。業務では7割が英語、3割が日本語。旅行英語とは違い、ビジネス英語や金融業界特有の専門用語も多く、最初は正直、何を言われているのか分からない場面もありました。

そんなとき意識していたのは、周りの優秀な同僚の話し方をとにかく聞くことです。言い回しや表現を真似して、自分の中に落とし込んでいく、地味ですが、それが一番の近道だったように思います。今ではリーダーも任されるようになりました。

将来的には、この金融の知識を活かせるような仕事にもチャレンジしたいと考えています。英語についても、これから先、続けていきたいですね。将来ずっと英語を使う仕事でなくても、ここまで積み上げてきた力は錆びつかせたくないと思っています。感覚としては、「英語と共に生きたい」という気持ちに近いのかもしれません。

振り返ってみると、学生時代に思い切ってタイへの旅やフィリピン留学、バックパッカー旅に出たことが、確実に今のキャリアにつながっていると感じます。あのときの選択がなければ、「英語を使って働く」今の自分はいなかった、そう思えるほど、人生の中でも大きな転換点でした。

海外へ行きたいと思っている人へアドバイスをお願いします

一番伝えたいのは、「何事も楽しんでほしい」ということですね。旅に、はっきりした目的があってもなくてもいいと思っています。現地では、楽しいことばかりじゃなくて、正直しんどいことやトラブルも起きます。でも、そういう出来事も含めて、その場所でしか味わえない経験なんですよね。うまくいったことだけを「良い経験」と考えなくていいと思います。失敗したことや、大変だった出来事も、あとから振り返ると、不思議と一番覚えていたりしますから。だから、もし海外に行ってみたい気持ちが少しでもあるなら、あまり構えずに飛び込んでみてほしいです。トラブルも、全部ひっくるめて楽しむ、そのくらいの気持ちでいる方が、きっと旅は面白くなると思います。